サノフィ株式会社とアストラゼネカ株式会社は、日本国内においてベイフォータス®の共同プロモーションを行っています。
更新日:2024年8月1日
森岡先生
2024年5月22日、抗RSウイルスモノクローナル抗体製剤であるベイフォータス®(一般名:ニルセビマブ)が発売され、実臨床での使用が開始されることとなりました。この発売に合わせ、日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会からは「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」及び「Q&A」が発出されました。ベイフォータス®はRSウイルス感染症の流行シーズン中に発売されたこともあり、このコンセンサスガイドラインは特に今シーズンの投与計画に役立つように最新エビデンスが反映されています。
今回、ベイフォータス®の発売を機に、関東圏でご活躍されている新生児科や感染症診療に携わられている先生方の皆様にお集まりいただく機会を設けました。各地域の抗RSウイルス抗体製剤に関する見解や使用方針をご紹介いただくとともに、同コンセンサスガイドラインに対する先生方の解釈、今後の抗RSウイルス抗体製剤のあり方について、活発な討議が行われました。この座談会が明日からのRSウイルス感染症診療のお役に立てる内容となれば幸いです。
同ガイドラインに示された通り、ベイフォータス®が2024/25年シーズン(今シーズン)から使用可能となりました。今シーズンは「まだ抗RSウイルス抗体製剤の投与を開始していない児」や「これから生まれてくる児」に対して、ベイフォータス®が選択肢になります。ベイフォータス®は単回投与で長期間作用することから、同ガイドラインでは「通常1流行シーズン当たり1回で十分である」ことが明記されています。
注意事項としては、ベイフォータス®には二つの効能又は効果があり、健康保険の適用の有無が異なることが挙げられています。ベイフォータス®は、すべての新生児及び乳児のRSウイルス感染予防戦略に寄与する可能性がありますが、現段階で「すべての新生児及び乳児に対するRSウイルス感染による下気道疾患の予防」を目的として使用することは、保険適用外であることを十分認識する必要があります。
森岡:
同ガイドラインに記されている通り、今シーズンより新たにベイフォータス®が抗RSウイルス抗体製剤の選択肢として加わることとなりました。ベイフォータス®は長期間作用型の抗RSウイルス抗体製剤で、MELODY試験では単回投与で150日間の有効性が認められています1,2,3(図1)。同試験は在胎35週以上(日本では36週以上)の健康な新生児及び乳児を対象に、投与5カ月後までのRSウイルス感染症による下気道感染の発現率が評価されました。主要解析の結果、ベイフォータス®群はプラセボ群に比べ有意に発現率を抑制することが示されました(検証的な解析によるp値<0.0001、ロバスト分散を用いたポアソン回帰モデル)。ベイフォータス®の安全性プロファイルは、第Ⅱ/Ⅲ相MEDLEY 試験において評価され、投与後360日までの全有害事象の発現割合はベイフォータス®群72.3%、パリビズマブ群70.7%という結果が得られています。また、プレフィルドシリンジで細かな用量調節が不要であることも特徴のひとつとなっています。
5月現在、RSウイルス感染症は流行期間中ですので、すでに抗RSウイルス抗体製剤の投与を始めているお子さんもいると思います。一方で、これから新しく生まれてくるリスクの高いお子さんもいます。ベイフォータス®が発売された今、先生方の地域あるいはご施設ではどのように抗RSウイルス抗体製剤を使用されていく予定でしょうか。使用方針などがありましたら教えて下さい。
山岸:
東京都は、今シーズンの抗RSウイルス抗体製剤については4月から投与開始するように通知していますので、同ガイドラインに倣い、すでに投与を開始している場合にはそのまま投与を継続することを推奨していきます。一方で、これから投与を開始する場合にはベイフォータス®が選択肢になると考えています。
吉原:
栃木県も東京都とほぼ同じ方針です。ベイフォータス®は1シーズン1回投与と投与回数が少ないので、医療従事者や保護者の負担軽減にもつながることが期待されます。今後、ベイフォータス®を選択するケースが増えていくのではないでしょうか。
峯:
私は埼玉県で開業医をしていますが、埼玉県には小児人口に対して医療従事者が非常に少ないという特徴があります。抗RSウイルス抗体製剤についても大学病院だけでなく、一般病院の小児科や地域の小児科開業医等が共に協力して投与にあたっています。当県のような医療リソースが十分でない地域はこれから投与開始する例を中心に、ベイフォータス®が選択されていくものと予想します。
伊藤:
神奈川県も今シーズンは3月にステートメントを発出しています。同ガイドラインに従い、既存の抗RSウイルス抗体製剤をすでに開始している児にはそのまま投与を継続することを推奨する方針です。ただ、これから投与を開始する場合にはベイフォータス®を優先させた方がよいと考えています。ベイフォータス®は投与直後から血中濃度が高くなるので、その特徴を生かせるのではないかと思います。
石和田:
千葉県も同様の方針です。ただ、ここ最近抗RSウイルス抗体製剤に関するアナウンスが続いているので、現場が混乱しないように注意深く情報発信したいと考えています。
森岡:
同ガイドラインと同日に「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A」が発出されました。抗RSウイルス抗体製剤の選択肢が増えた初めてのシーズンですので、臨床現場で抱かれやすい疑問を5つの質問項目として設定しています(図2)。本日はこのうち質問項目1と2について、先生方にご意見をお伺いしたいと思います。
1.RSウイルス感染症の流行1シーズン中にニルセビマブの投与後にパリビズマブを投与することはできますか?
2.RSウイルス感染症の流行1シーズン中にパリビズマブからニルセビマブに切り替えられますか?
3.妊婦が能動免疫として新生児及び乳児のRSウイルスの下気道疾患の予防を目的とした組換えRSウイルスワクチンの接種を行った場合、出生後もニルセビマブを投与できますか?
4.パリビズマブとニルセビマブのどちらを使用したらいいですか?
5.心肺バイパス手術後の補充投与の添付文書の記載がわかりにくいので解説してください。
森岡:
まずは質問項目1です。ベイフォータス®は臨床試験により約5カ月の有効性が示されていますので、投与5カ月後もまだ流行期間内である場合を想定した質問となっています。Q&Aでは、流行1シーズン内に2剤使用することの知見は不足しているため、「ベイフォータス®は1流行シーズン当たり1回で十分」と回答しています。
伊藤:
理論的に、ベイフォータス®はRSウイルスのFタンパク結合部位との親和性が高いので長期間作用すると思いますが、臨床データではないので、この質問に回答するにはエビデンスが不十分というのが現状ではないでしょうか。
石和田:
ベイフォータス®のデータのひとつに、投与後360日までの血清中の抗RSウイルス中和活性を示したグラフがありますが(図3)、皆さんはこのデータをどのように解釈されていますか。
峯:
開業医の立場としても、気になるところです。有効性と置き換えて解釈してはいけないのですよね?
伊藤:
ご指摘の通りです。ベイフォータス®の有効性が臨床上どの程度持続できるかについては、今シーズンの市販後調査の結果を待つしかないと思います。
山岸:
Q&Aの回答の通りだと思います。現時点では、1流行シーズン内に2種類の抗体製剤を投与する意義は明らかにされていません。同ガイドラインに記されている通り「ベイフォータス®は1流行シーズン当たり1回で十分」という考え方に従うことをお勧めします。
生後初回シーズンの血清中の抗RSウイルス中和活性は以下のとおりでした。
※MEDLEY試験においては中和抗体価の測定を実施しましたが、ニルセビマブとパリビズマブの群間比較の検定は実施されておりません。
1st season
試験デザイン:国際共同、第Ⅱ/Ⅲ相、多施設、ランダム化、二重盲検、パリビズマブ対照試験
試験目的:ベイフォータス®の安全性と忍容性を評価する
対 象:在胎期間35週未満の早産児、先天性心疾患(CHD)または未熟児慢性肺疾患(CLD)を有する乳幼児
評価項目:投与後360日間の有害事象の発現率
用法用量:ベイフォータス®群ではベイフォータス®体重別固定用量(体重5kg未満は50mg、5kg以上は100mg)を単回筋肉内投与後、プラセボを月1回計4回筋肉内投与した。パリビズマブ群では、パリビズマブ15mg/kgを月1回、計5回筋肉内投与した。
森岡:
次に質問項目2です。今シーズンの投与をすでに開始している場合について、流行1シーズン中に途中からベイフォータス®へ切り替えることについての是非をお伺いします。Q&Aでは、質問項目1と同様に切り替えに関する知見が不足しているため、最初の薬剤を完遂するように記載されています。
山岸:
すでに今シーズンの投与を開始しているケースは長期のエビデンスがあるので、Q&Aの回答の通り、そのまま継続する方がよいと考えます。
伊藤:
同感です。流行1シーズン内の切り替えに関する有効性や安全性のエビデンスは不十分ですので、お勧めできません。
山岸:
途中で薬剤を切り替えると、保険審査側の混乱を招く恐れもあります。
伊藤:
神奈川県は事前に小児科学会地方会と保険審査側で協議を行うため、保険審査に認識のずれは生じないのですが、地域によっては審査基準が異なることもあり得ます。この質問の回答については、今後の検討課題となるのではないでしょうか。
森岡:
最後に、今回のコンセンサスガイドラインの内容を受けて、各都県の今シーズンの抗RSウイルス抗体製剤の使用方針についてお聞かせください。
伊藤:
神奈川県はこれまでと同様に、保険審査側と協議の上、ベイフォータス®に関する情報も早めに発信していきたいと考えています(注1)。なぜなら、神奈川県では毎年小児RSウイルス感染症による入院率や重症化率などのデータを収集しており、県内で一貫した対応をする必要があるからです。とくに今回のような新薬が追加される年は、混乱を避けることが最も重要と考えています。
峯:
埼玉県も基本的に全県統一の対応を取っていて、小児科学会地方会のワーキンググループが方針を決定し、情報発信をしています(注2)。発信先には、小児科医会だけでなく、産婦人科医会、それに埼玉県医師会を含めるようにしています。産婦人科医会は産婦人科に勤務されている小児科医もいますので、その方たちに向けてという意味も含まれます。また、埼玉県医師会からは各地域の医療機関に情報が広がるようになっています。
石和田:
千葉県は、いつも神奈川県や埼玉県を参考にステートメントを発出しています。発出後のフローは確立されているので、今回のベイフォータス®に関する通知も同じフローに則って周知徹底されていく予定です(注3)。
森岡:
東京都も、今回のコンセンサスガイドラインに沿って、すでに投与を開始している児には原則継続投与することとし、これから生まれてくる適応症を有する児には、ベイフォータス®を選択肢に加えるという方針を伝達していきます(注4)。
山岸:
循環器系の適応症に関して言えば、今回のガイドライン等を受けて東京循環器小児科治療Agoraでも協議をして、足並みをそろえていく予定です。
吉原:
栃木県も、同じくワーキンググループが協議を行い、このコンセンサスガイドラインをベースに、ベイフォータス®の取り扱いについてのステートメントを発出していきます(注5)。先ほど伊藤先生がお話になったように、今後注視すべきは市販後調査の結果で、これからの使用方針を決定する上で重要なデータになると思います。
RSウイルス感染症は成人になってからも呼吸機能に影響を及ぼす長期的な疾病負荷が知られていますので、その予防の重要性についても広く周知されていくことを願っています。
森岡:
本日は5月22日に新しく発売された抗RSウイルス抗体製剤のベイフォータス®に関して、同日に発出されたコンセンサスガイドラインの内容を踏まえ、先生方の見解や各都県での対応等をお話いただきました。今後、ベイフォータス®の実臨床での知見が蓄積されていけば、また新しい議論が展開されていくことと思います。本日はどうもありがとうございました。
注1:「神奈川県における2024/25年シーズンのニルセビマブ(ベイフォータス®)投与に関する考え方」(日本小児科学会神奈川県地方会感染症小委員会、日本小児科学会神奈川県地方会、2024年5月23日)
注2:「埼玉県RSウイルス流行監視WGからのお知らせ」(日本小児科学会埼玉地方会、2024年05月30日)
注3:「千葉県におけるRSウイルス感染症流行予測とパリビズマブ投与について2024年〜2025年シーズン(第3報) パリビズマブとニルセビマブの使用に関して」(日本小児科学会千葉地方会 千葉県パリビズマブ適正使用ワーキンググループ、2024年6月3日)
注4:「ニルセビマブ(ベイフォータス)の投与について⾒解 2024 東京」(東京都新生児医療協議会、2024年5月29日)
注5:「栃木県における2024年シーズンのパリビズマブ・ニルセビマブ投与の方針について」(2024年6月20日)
● 参考文献
1.社内資料:国際共同第Ⅲ相試験(D5290C00004試験)(承認時評価資料)
2.Hammitt LL, et al. N Engl J Med. 2022; 386(9): 837-846.*
3.Muller WJ, et al. N Engl J Med. 2023; 388(16): 1533-1534.*
*本試験はアストラゼネカ株式会社及びサノフィ株式会社からの資金提供等による支援を受けた。
MAT-JP-2403569-1.0-07/2024