更新日:2024年10月31日
ベイフォータス®の添付文書には、効能又は効果の欄に「生後初回又は2回目のRSウイルス感染流行期」という表記があります。しかし、どの流行期が生後初回にあたるのかなど、流行期の捉え方に関する問い合わせが数多くありました。流行期には季節性がある地域と季節性が明確でない地域があるため、それぞれに解説したいと思います。
Q&Aの「6」は、季節性のある地域において、早産などでNICUの入院期間が長引き、「出生時」は流行期であったものの「退院時」には流行期が終了している場合があります。添付文書に照らし合わせると、この場合の「生後初回の流行期」は「出生時」あるいは「退院時」のいずれとも解釈することができます。ただし、RSウイルスへの曝露リスクが高い時期をより優先して予防すべきであるため、「退院時」を基準に投与を検討することが適切だと思います。
初回の流行期を、「出生時」にRSウイルス感染症が流行している状況ととらえると、このような例では接種の機会を逸してしまうことになります。早産児や先天性心疾患児では、長期間入院していることを鑑みますと、「モノクローナル抗体製剤投与時点(施設の退院時や初回の外来受診時など)」として、投与機会の確保をしたいところです。ただし、解釈次第ではどちらの対応も考慮されますので、地域の流行状況なども踏まえ、健康保険の審査員等との情報共有をすることが重要と考えます。
具体的には、図1のケース①に示したように、「退院時」が流行期内であればベイフォータス®を投与します。一方、ケース②のように「退院時」が非流行期に該当する場合にはベイフォータス®を投与できないので、待機して来シーズンの投与に備えることになります。
Q&Aの「12」は、RSウイルス感染症の流行期が明確でない、通年性の地域における投与時期について解説しています。この場合は「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン(2024年5月22日発)」に倣い、生後12か月齢までを初回感染流行期、生後12〜24か月齢を生後2回目の感染流行期と捉え、合計2回の投与ができるように投与管理することが重要です。
「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」でも、「RSウイルス感染流行が通年性の地域では、生後12か月齢までを初回感染流行期、生後12~24か月齢を生後2回目の感染流行期とすることも考慮される。」としています10)。ハイリスクである対象児を漏れなくRSウイルス感染症の重症化から守る観点から、投与年齢上限が24か月齢までであるため、2歳の誕生日までに2回目の投与を終えるようスケジュールを組むことが考えられます。
10)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=587(2024年8月5日閲覧)
NICUに長期入院をした場合は、退院時に関わらず、いつでも投与できるのが通年性の地域の特徴です(図2)。
ベイフォータス®の有効性は、Q&Aの「7」や同ガイドラインでも記述している通り、MELODY試験やMEDLEY試験に基づき1回の投与で少なくとも5か月間継続することが示されています。流行期の終盤にベイフォータス®を投与した場合、来シーズンとの投与間隔を意識するかもしれませんが、基本的にはQ&Aの「7」の回答にある通り、有効期間のわずかな重複よりも、来シーズンの流行開始時期を優先して投与時期を設定してください。
今後、有効期間のエビデンスが蓄積していけば、より効率的な投与方法が明らかになると思いますので、引き続き最新エビデンスを注視していくことが大切です。
現在入手可能なエビデンスとして、ニルセビマブの国際共同試験の結果から1回の投与で少なくとも5か月間の有効性が示されています(海外後期第Ⅱ相試験(D5290C00003 試験)、国際共同第Ⅲ相試験(D5290C00004[MELODY 試験])、国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(D5290C00005[MEDLEY 試験])等、「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」参照4))。ただし、5か月以降に全く有効性が期待出来なくなる訳では無く補完データからはある程度の効果の持続は期待されますが5)、最近報告されたメタアナリシスでは、150日間未満の観察期間での有効性は比較的高かったが観察期間の延長とともに有効性の低下がみられています6)。そのため、現時点において、十分な臨床エビデンスがあるとは未だ言い難い状況です。よって、臨床上では、前回の投与の効果は少なくとも5か月間持続していると考え、生後2回目の投与対象児への投与タイミングは、有効期間のわずかな重複の懸念よりも「生後2回目のRSウイルス感染流行期」の開始時期を重視し投与することが考えられます。
4)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン.
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=587(2024年8月5日閲覧)
5) AstraZeneca & Sanofi. June 8, 2023. Meeting of the Antimicrobial Drugs Advisory Committee: Event Materials.
https://www.fda.gov/media/169323/download(2024年8月5日閲覧)
6) Ricco M, et al. Impact of Nirsevimab Immunization on Pediatric Hospitalization Rates: A Systematic Review and Meta-Analysis (2024). Vaccines (Basel). 2024;12(6):640.
流行期終盤におけるベイフォータス®投与の考え方としては、Q&Aの「8」で示されているように、流行期間内であればベイフォータス®を投与します。ただ、流行が終息し非流行期に入った場合はベイフォータス®を投与できないので、待機して来シーズンの投与に備えます。
ここで注意が必要なのは、早産の場合です。ベイフォータス®には早産児の2回目流行シーズンへの適応がないため、初回シーズンの流行期終盤に投与した児と「待機」した児では、来シーズンに選べる薬剤が異なることを把握しておかなければなりません(ただし、慢性肺疾患などの他のベイフォータス®対象疾患がある場合を除く)。その点では、今シーズンよりも来シーズンの方が注意を払うべき点が多いと言えるでしょう。
RSウイルス感染症流行期の後半で、流行が落ち着いてきている時期でもニルセビマブの投与は可能です。流行がどのように終息するかや終息する時期の予測は難しいためです。一方、定点あたりの報告数など地域で流行期が終了していると判断する場合は、原則、投与することはできません。
「Q&A(第2版)」は、ベイフォータス®だけでなく関連薬剤についても触れられており、RSウイルス感染症に対する予防策をより広い視野で捉えられるようになっています。そのひとつとして、抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤の使い分けを示したフローチャートが掲載されています(図3)。先にも述べたように、来シーズン以降は適応ごとに何回目の流行シーズンに該当するかに注意が必要となります。是非このフローチャートを活用いただき、ベイフォータス®の適正使用を推進してほしいと思います。そして、来シーズンも引き続き、RSウイルス感染症からお子さんを守るために予防体制を整えていただければと思います。
令和6年8月29日付けの厚生労働省保険局医療課の事務連絡に伴い、「B001-2」小児科外来診療料において、ベイフォータス®は「別に厚生労働大臣が定める薬剤」として、同じRS ウイルス感染症に対する抗体製剤である「パリビズマブ(シナジス®)」と同様に取り扱われることになりました。したがって、Q&Aの「10 ニルセビマブは新生児集中治療室(NICU)や新生児回復室(GCU)などを退院する前に投与する事ができますか?」の回答に記載されている通り、ベイフォータス®は小児科外来診療料を算定しているいないにかかわらず出来高で請求することができます。
厚生労働省保険局医療課事務連絡「疑義解釈資料の送付について(その11)」令和6年8月29日参照