更新日:2025年1月31日
現在、新生児、乳児および幼児のRSウイルス感染症の予防あるいは重症化を抑制するための薬剤には、抗RSウイルスモノクローナル抗体の「シナジス®(パリビズマブ)」と「ベイフォータス®(ニルセビマブ)」、そして母子免疫ワクチンの「アブリスボ®(組換えRSウイルスワクチン)」の3剤があるが、これらをどのように使い分けるかは臨床上の課題となっている。
パリビズマブとニルセビマブは、いずれも生後に投与する抗体製剤で、どちらを投与するかは主治医の判断に委ねられている。ただし、パリビズマブは2024年3月に新規適応として、24カ月齢以下の肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患が追加された。ニルセビマブにはこれら5疾患への適応はないので、注意を要する。他にもニルセビマブは、慢性肺疾患や先天性心疾患などの合併症がない早産児に関しては生後初回シーズンしか健康保険の適用を有していない。保険適用上、どちらの薬剤を選択できるかは、日本小児科学会から発出されている「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A(第2版)」1)にもフローが掲載されているので、是非参照いただきたい。
母子免疫ワクチンは、妊娠24週~36週の妊婦に接種することで、出生直後から約6カ月間にわたりRSウイルスに対する有効性が発揮される。しかし、接種後2週間以内に出生した場合は十分な抗体移行がないと考え、パリビズマブまたはニルセビマブを投与することが推奨される。他にも、前述のコンセンサスガイドラインで紹介している通り、重篤なRSウイルス感染症の発症リスクを有する新生児・乳児や、ワクチン接種に対して十分な免疫応答が得られない妊婦の場合などは、RSウイルスワクチンの接種にかかわらず、抗体製剤の投与が推奨される。
パリビズマブおよびニルセビマブはRSウイルスの流行期での投与が定められているが、流行期に出生した早産児や先天性心疾患児が退院するときには流行期が終了していることもある。このような例では、出生時を初回流行期とすると時期を逸してしまうことになるので、退院時に投与機会を確保したいところである。この点については、流行状況などにより各地域の解釈が分かれることがあるため、健康保険の審査員等と情報共有をすることが重要である。
また、流行期後半のニルセビマブについては、次の流行期まで待機するという考え方もあるが、流行の終息を予測することは難しいため、流行が落ち着いていても流行期内であれば投与することとする。
東京都ではRSウイルス感染症の流行期の捉え方にバラつきが出ないように、毎年、東京都新生児医療協議会が見解をまとめ、発表している。2024年度はニルセビマブの導入初年度ということもあり、9月に「2024-25年シーズン後半期と2025-26年シーズン開始時に関するニルセビマブ(ベイフォータス®)とパリビズマブ(シナジス®)の投与の考え方 東京」を公表した2)。その中で、2024年11月~2025年2月までを非流行期と定め、2025-26年のRSウイルスの流行開始を3月と想定した。もちろん、流行開始が大きくずれる場合は再度協議が行われる予定であるが、非流行期には特定のハイリスク児やパリビズマブの新規適応5疾患を除き、原則、パリビズマブおよびニルセビマブの新規導入は行わないこととした。万が一、突発的な地域流行が起きた場合にも、パリビズマブが選択できるようにオプションを残した形になっている。
RSウイルス感染症に限らず、小児の呼吸器感染症にはマイコプラズマ肺炎や百日咳、インフルエンザなどさまざまなものがあるが、初期症状は互いに類似しており、早期診断は難しい。SARS-CoV-2が疑われた1,207例を対象とした疫学調査では、SARS-CoV-2の陽性率は10%、他の病原体の陽性率は24%で、SARS-CoV-2陽性者には他の病原体との複合感染が20%含まれていたという3)。この結果はすべての感染症を診断するのは難しいことを示しているが、たとえ複数の感染症を疑った場合にも、現在主流のイムノクロマト法には限界がある。これは単抗原検査であり、スワブによる複数の検体採取は患児やスタッフの負担を考えると現実的とは言い難い。
FilmArray®はマルチプレックスPCR法を採用し、多項目の核酸の同定を一度にできる検査システムである。呼吸器パネルは、測定時間45分で、類似症状で鑑別が難しい呼吸器病原体を網羅的に検出することができる(表)。
当院でも、NICU入院中に発熱を認めた児にFilmArray®を施行し、原因菌の特定に役立てている。FilmArray®はNICU内でウイルス感染症によるアウトブレイクが疑われた場合にも、迅速で網羅的な検査が可能であり、感染症の拡大を早期に防止する手がかりとなり得る。
● 参考文献
1)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会「日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A(第2版)」(2024年9月2日改訂)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240904Nirsevimab_GL_QA.pdf(2024年12月25日アクセス)
2)東京都新生児医療協議会「2024-25年シーズン後半期と2025-26 年シーズン開始時に関するニルセビマブ(ベイフォータス®)とパリビズマブ(シナジス®)の投与の考え方 東京」(令和6年9月14日)http://tokyoneonatology.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=152773(2024年12月25日アクセス)
3) Kim D, et al. JAMA. 2020; 323: 2085-6.