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「米国感染症学会週間(IDweek 2023)」より
Oral 89
RSV感染流行期の全乳児におけるNirsevimab*の影響:HARMONIE試験のデータ
The impact of Nirsevimab on an RSV season in all infants: Data from the HARMONIE study
Saul N. Faust 先生
(University of Southampton)

 Nirsevimabの有効性と安全性を実社会に近い環境で検証したオープンラベル多施設共同の第Ⅲb相HARMONIE試験の結果が報告され、Nirsevimabを単回投与した乳児では、投与しなかった乳児と比べ、RSVの下気道感染(lower respiratory tract infection: LRTI)による入院が8割以上減少し、その予防効果は月齢や体重、在胎期間に関わらず一貫していたことが分かった。

 本試験には、イギリス、フランスおよびドイツの医療機関約250施設が参加した。在胎期間29週以上で12カ月齢未満の乳児8,058例が登録され、RSV感染流行前または流行中にNirsevimabの単回筋注を行うNirsevimab群4,037例と、Nirsevimabの投与を行わない非介入群4,021例に無作為に割り付けられた。層別因子は、国と無作為化時の月齢(3カ月以下、3カ月超6カ月以下、6カ月超)であった。

 Nirsevimab群には、1日目にNirsevimabの単回筋注(体重5㎏未満は50mg、5㎏以上は100mg)を行い、その後は月1回の頻度で6カ月間遠隔で経過を観察し、366日目には電話での調査を行った。非介入群は1日目に対面した後、366日目に電話での調査を行った。また、両群とも投与31日目に安全性の評価を行った。

 主要評価項目は、RSV流行期間中のRSV LRTIによる入院率、副次評価項目はRSV流行期間中の重度LRTI(酸素飽和度が90%未満に低下し、酸素補充療法を施行した場合と定義)の発生率、病因を問わないLRTIによる入院率などに設定した。

 ベースラインの患者背景は両群で差がなく、全体の平均月齢は4.51カ月で、3カ月以下が48.6%、3カ月超6カ月以下が23.7%、6カ月超が27.7%であった。在胎期間は37週以上が85.2%で、無作為化時の体重は5kg以上が62.0%、出生時期はRSV流行期間中が50.0%であった。国別ではイギリスが50.8%、フランスが27.0%、ドイツが22.2%であった。

 RSV流行期を通したRSV LRTIによる入院率は、非介入群が1.5%(60例)であったのに対し、Nirsevimab群は0.3%(11例)で、Nirsevimabの有効性は83.21%(95%CI: 67.8-92.0、p<0.0001)であった。サブグループ解析の結果、月齢、無作為化時の体重、および在胎期間に関わらず、Nirsevimab群のRSV LRTIによる入院率は非介入群に比べ一貫して低かった。

 RSV流行期間中の重度LRTIの発生率は、非介入群の0.5%(19例)に対し、Nirsevimab群は0.1%(5例)で、75.4%(95%CI: 34.0-90.8、p=0.0036)の有効性が認められた。また、病因を問わないLRTIによる全入院率は、非介入群の2.4%(98例)に対し、Nirsevimab群は1.1%(45例)で、有効性は58.04%(95%CI: 39.7-71.2、p<0.0001)であった。

 有害事象(adverse event: AE)の発現率は、Nirsevimab群が36.8%、非介入群が33.0%で、グレード3のAEは各1.2%、1.1%、重篤なAEは各2.2%、1.7%で、Nirsevimabの安全性プロファイルはこれまでの臨床試験データと一貫していた。

 結論としてFaust氏は、実社会に近い環境において、Nirsevimabは全乳児コホートのRSV LRTIに対し有意に高い予防効果を示したと述べた。

*本邦未承認

監修 古野 憲司先生のコメント

ニルセビマブの有効性と安全性をリアルワールドに近い状況で検証した、HARMONIE studyです。ニルセビマブ投与、非投与各群4,000人規模のRCTで、ニルセビマブ単回投与によりRSVによる下気道炎での入院が1.5%から0.3%に抑制されています。現在は、パリビズマブの効果で重症化ハイリスク群の入院率が大幅に減少して、入院してくる患者の大半は基礎疾患のないお子さんです。その中にも重症化する方がいらっしゃいます。基礎疾患のないお子さんであっても、入院を回避できると、本人がハッピーなことはもちろんですが、仕事を調整するなどして付き添いをする親や祖父母にとっても朗報です。社会全体としての疾病負荷の削減にも貢献するでしょう。