NICU感染症診療 メディカルスタッフ Webセミナー 初級ベーシック教育講座
「米国感染症学会週間(IDweek 2023)」より
Poster 2639
小児病院におけるパリビズマブ投与の最適な時期を決定するための呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の疫学と季節性モニタリングにおける抗菌薬適正使用プログラム(ASP)の役割
Role of antimicrobial stewardship programs (ASP) in monitoring epidemiology and seasonality of Respiratory Syncytial Virus (RSV) to determine optimal timing of Palivizumab (PZ) administration at a pediatric hospital
Matt Mason 先生
(Nemours Children’s Health)

 RSVの予防薬であるパリビズマブは、これまで典型的なRSV流行シーズン中での投与が推奨されてきた。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、RSV流行シーズンは変化し、パリビズマブの最適な投与時期が不確かとなっている。パリビズマブの投与時期が適切でない場合、高リスク乳幼児のRSV感染が増加する可能性がある。そこで今回「抗菌薬適正使用プログラム(Antimicrobial Stewardship Programs:ASP)」を介してRSV流行をモニタリングし、パリビズマブ の最適な投与時期を決定する試みが米国で行われた。その結果、入院中の高リスク乳幼児の防御期間を最大限に延長できる可能性が示唆された。

 2020年から、ASPによるRSV陽性率を用いたRSV流行のモニタリングが開始された。RSV陽性率とは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で検出されたRSV検出数を検査実施総数で割った値である。RSV流行期は、先行研究を参考に「PCRでの陽性率が3%以上であった連続する2週間」と定義された1,2)

 2021/2022年シーズンから、入院患者へのパリビズマブ投与は、陽性率3%以上のRSV流行期のみとなった。すなわち、典型的なRSV流行期(米国北東部では11〜3月)に関係なく、月間感染率が3%を超えた時点でパリビズマブを投与し、陽性率が3%を下回れば投与は中止された。パリビズマブは電子医療記録を介してのみ処方できるため、毎月のRSV陽性率が3%未満になると投与オーダーが中止されるように設定された。例外的に投与する場合は、ASPおよび/または感染症治療薬承認委員会の承認を必要とした。並行して、院内の関係者には教育や説明のプログラムを実施した。

 モニタリングの結果、COVID-19以前は10月または11月に始まっていたRSVの流行は、2021年は5月に始まり、パリビズマブの投与は8月に開始して2022年3月に終了した。翌2022年は7月に流行が認められ始め、9月にパリビズマブの投与を開始して2023年2月に終了した。COVID-19パンデミック期にあたる2020/2021シーズンを除くと、RSV流行1シーズンあたり、入院患者へのパリビズマブ投与数の平均は62回だった。

 以上のように、陽性率に閾値を設定することで、RSV流行期の開始と終了を予測する客観的な指標を提供することができた。ASPを介して、RSVの疫学モニタリングとパリビズマブの投与に関する臨床意思決定支援の提供、さらに医療従事者の教育を組み合わせることで、RSV予防薬の投与時期を最適化できる可能性が示唆された。これは新規薬剤のNirsevimab*にも対応可能である。今後は、ASP介入の臨床的および経済的影響を評価する後続研究が必要である。

*本邦未承認

文献
1) Hamid S. et al, MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023; 72(14): 355-361.
2) Midgley CM. et al, J Infect Dis. 2017; 216(3): 345-355.

監修 古野 憲司先生のコメント

パリビズマブは、流行初期に投与することで最大の効果が発揮されることはよく知られています。しかし、新型コロナの流行後はRSVの流行期が毎年変化しており、これを予測することが困難になっています。本発表ではPCR検査陽性率と「抗菌薬適正使用プログラム(ASP)」の仕組みを組み合わせて、流行を捉えパリビズマブの投与をコントロールすると、適切な投与を行うことができたということを示しています。適切な投与を現場の医師に徹底させることは、様々な工夫を行ってもなかなか難しいと感じますが、そこにASPのシステムを利用して処方をコントロールするというアイデアは目から鱗で、確かに効果が期待できると思います。問題は、日本ではそもそもASPの浸透に苦戦していることでしょうか。