NICU感染症診療 メディカルスタッフ Webセミナー 初級ベーシック教育講座
「米国感染症学会週間(IDweek 2023)」より
Oral 1942
米国乳児の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染予防を目的とした妊婦への2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種による、公衆衛生における潜在的影響
Potential Public Health Impact of Bivalent Respiratory Syncytial Virus Prefusion F (RSVpreF) Maternal Vaccine for Prevention of RSV among US Infants
Amy Law
(Pfizer社)

 2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチンの妊婦への接種は、接種しなかった場合と比べ、乳児のRSVによる下気道疾患(RSV- lower respiratory tract disease: RSV-LRTD)の症例数を減少し、それに伴い直接的、間接的経済的負担を大幅に軽減させることが、米国のコホートモデルを用いた解析の結果から明らかになった。

 本研究では、出生から1歳までの乳児における影響を評価するコホートモデルを開発し、臨床転帰、医療費および間接的な経済的損失について、妊婦がRSVpreFワクチンを接種した場合と接種しなかった場合とを比較し、ワクチン接種による公衆衛生の潜在的影響を評価した。

 臨床転帰は、治療を必要とするRSV-LRTDの症例数、およびRSV-LRTDによる死亡数を評価した。これらの評価は、乳児の月齢や出生時の在胎期間、治療環境(入院/救急外来/外来クリニック)別のRSV-LRTD罹患率、RSV-LRTDによる致死率、ワクチンの有効性(第Ⅲ相MATISSE試験の中間解析データから算出、ワクチンの有効期間は10カ月と仮定)、ワクチン接種から出生までの期間を基に、月ごとに推計した。また、医療費は症例数と医療単価を用いて算出、間接費は保護者の就労機会損失と、RSV-LRTDに関連した早期死亡に伴う将来の収入損失に基づき推測した。なお、ワクチンの接種コホートは妊娠32~36週に接種し、接種は年間通して可能で、接種率は100%と仮定した。

 解析の結果、RSVpreFワクチンを接種しない場合、1歳未満の乳児において治療を必要とするRSV-LRTDの年間症例数は約59万2千例に上った。これに対し、接種する場合は約39万7千例に減少し、接種により約19万5千例減少すると推測された。内訳としては、入院数が4万8,246例から2万4,727例(49%減)に、救急外来が14万4,495例から9万9,241例(31%減)に、外来クリニックの受診が39万9,313例から27万2,568例(32%減)に減少した。

 年間の医療費は、ワクチンを接種しない場合が14.43億ドル、接種する場合は7.76億ドルで、6.67億ドルの削減が推測された。影響が最も大きかったのは入院で、ワクチンを接種しない場合の10.33億ドルに対し、接種した場合が5.03億ドル(51%減)、救急外来は2.66億ドルから1.79億ドル(33%減)、外来クリニックは1.44億ドルから0.94億ドル(35%減)に減少した。間接費は、ワクチンを接種しない場合が約2.94億ドル、接種する場合は約1.88億ドルで、1.06億ドル減少すると推測された。内訳は、入院が1.04億ドルから0.58億ドル(44%減)、救急外来は0.61億ドルから0.42億ドル(32%減)、外来クリニックが1.29億ドルから0.88億ドル(32%減)に削減された。

 なお、ワクチンの有効性を6カ月間に仮定した場合は、ワクチン接種による症例数の削減率は入院が45%、救急外来が28%、外来クリニックが29%で、経済的負担の削減率は42%(医療費44%、間接費33%)であった。ワクチンを10~3月出産予定の妊婦に接種すると仮定した場合は、ワクチン接種による症例数の削減率は、入院が38%、救急外来が20%、外来クリニックが21%で、経済的負担の削減率は34%(医療費36%、間接費25%)となった。

 本解析は、RSVpreFワクチン効果について6カ月以降のデータが不確かなこと、早産児への効果が過小評価されていること、妊婦のRSV感染や家族内感染、喘息などのRSVによる長期の影響も減らせることが考慮されていないなどの解析上の限界があるものの、RSVpreFワクチン接種により乳児のRSV-LRTD年間症例数は約20万例減り、医療費は約7億ドル、間接費は約1億ドル削減される可能性が示された。

監修 野崎 昌俊先生のコメント

RSVワクチンについては、高齢者におけるワクチンが先行して開発され、日本ではすでに製造販売が承認されました。妊婦に対するワクチンの研究開発も進み、ワクチンの有効性が確認されています。本研究は、具体的な公衆衛生上の疾病負荷について評価した研究です。乳児の入院、救急外来、外来クリニックの患者数が減少し、直接的な医療費ならびに間接的な経済的損失が減少することが示されています。日本でも間もなく正式に承認される見込みであり、参考にすべき研究結果と思われます。また、乳児のRSV予防にはその他にも、抗RSVヒトモノクローナル抗体、さらには小児向けワクチンや治療薬の開発が進められており、妊婦ワクチンも含めて、乳児のRSVに対するより充実した予防・治療戦略を確立する必要があります。