NICU感染症診療 メディカルスタッフ Webセミナー 初級ベーシック教育講座
「米国感染症学会週間(IDweek 2023)」より
Poster 2655
血清反応陽性の小児に対する呼吸器合胞体ウイルスワクチンmRNA-1345および、ヒトメタニューモウイルスとパラインフルエンザウイルス3型混合ワクチンmRNA-1653の安全性および免疫原性を評価した第Ⅰ相試験の結果
Phase 1 Safety and Immunogenicity Results of Two Investigational mRNA Vaccines, mRNA-1345, a Respiratory Syncytial Virus Vaccine, and mRNA-1653, a Human Metapneumovirus and Parainfluenza Virus Type 3 Combination Vaccine in Seropositive Young Children
Matthew D. Snape
(Moderna Biotech Distributor UK Ltd)

 mRNA-1345 は、融合前Fタンパク(preF)をコード化する単一のmRNA 配列からなるRSVワクチンである。すでにConquerRSV第III相検証的臨床試験より、60歳以上の高齢者のRSVによる下気道疾患に対する有効性が報告されており、現在、欧州およびスイス、オーストラリアの規制当局に承認申請され、併せて米国では米食品医薬品局に対して生物学的製剤承認申請の段階的申請を開始しているところである。今回、同ワクチンの生後12~59カ月の血清反応陽性の小児を対象とした第Ⅰ相無作為化観察者盲検プラセボ対照試験が実施され、5カ月目までの安全性および反応性、免疫原性に関する中間データが報告された。今回の報告では、mRNA-1345の同時接種の候補であるヒトメタニューモウイルス(hMPV)とパラインフルエンザウイルス3(PIV3)のワクチン、mRNA-1653の第Ⅰ相無作為化観察者盲検プラセボ対照試験の最終データについても合わせて報告された。

 いずれの試験も、対象は生後12~59カ月の血清反応陽性の小児であった。mRNA-1345の試験には生後17~59カ月の46例が登録され、mRNA-1345の30μg群と15μg群、プラセボ群にそれぞれ16例、15例、15例が無作為に割り付けられた。各群それぞれmRNA-1345またはプラセボを、初回とその後2カ月ごとの合計3回接種され、観察期間は16カ月に設定された。一方、mRNA-1653の試験には生後18~55カ月の27例が登録され、mRNA-1653の30μg群と10μg群、プラセボ群にそれぞれ9例、8例、10例が無作為に割り付けられた。各群それぞれmRNA-1653またはプラセボを、初回とその2カ月後の合計2回接種され、観察期間は14カ月間であった。

 mRNA-1345の試験は5カ月の時点、mRNA-1653の試験は最終となる14カ月の時点において、両ワクチンとも用量に関わらず良好な忍容性を示した。mRNA-1345 30μg群の1例にグレード4の発熱(>40.0℃)が認められ、その後接種中止に至ったが、それ以外に死亡や重篤な有害事象、特に注目すべき有害事象、研究中止に至る有害事象は報告されなかった。

 免疫原性については、ベースラインですべての被験者にそれぞれのウイルスに対する中和抗体の保有が確認された。つまり、mRNA-1345の試験ではRSVに対する、mRNA-1653の試験ではhMPV/PIV3に対する曝露歴があることが示された。mRNA-1345は、どちらの用量群でも初回接種から1カ月後のRSV中和抗体価は増加したが(ベースラインからの幾何平均上昇倍率[GMFR]: RSV-A=18.9-34.9、RSV-B=7.2-14.3)、その後の接種では3カ月目、5カ月目ともに抗体レベルは上昇しなかった。同様に、mRNA-1653も用量に関わらず初回接種により1カ月後のhMPV/PIV3の中和抗体価は増加したが(ベースラインからのGMFR: hMPV-A=2.9-6.1、hMPV-B=6.2-13.2、PIV3=2.8-3.0)、2回目接種による3カ月後の抗体レベルは上昇しなかった。また、どちらのワクチンも初回接種でpreFに対する免疫応答を誘導したが、追加接種による結合抗体価の上昇は認められなかった。

 本研究の結果は、今後のmRNA-1345およびmRNA-1653の継続的な開発を支持するものとなった。現在は、両者の同時接種を評価するため、生後5~24カ月の小児を対象とした第I相臨床試験が進行中である(NCT05743881)。

監修 野崎 昌俊先生のコメント

RSVワクチンの開発研究については、1960年代に米国でホルマリン不活化RSVワクチンの治験が施行されましたが、ワクチン接種後のRSV初感染時の入院率が非接種群よりも大幅に高く、死亡例も見られました。抗体とウイルスとの結合による免疫(炎症)増強あるいは免疫細胞での感染増強によってウイルス疾患が重症化する、抗体依存性増強(Antibody dependent enhancement;ADE)と考えられました。以来RSVのワクチン開発は停滞していましたが、宿主細胞に融合する前のFタンパク質(prefusion-F)に結合する抗体にRSV感染を防ぐ能力があることが明らかになり、RSVワクチンの開発が再度進んでいます。本研究で取り上げられた2種類のワクチンについて、臨床的なワクチン効果やADEについて注視していく必要があります。