B群レンサ球菌(GBS)は、新生児期から乳児期前半に侵襲性感染症を引き起こす主要な原因菌である。本研究1)の目的は、日本の1歳未満児のGBS感染症の最新の疫学を明らかにすることである。日本小児科学会が認定する研修施設・研修支援施設の合計490施設を対象にアンケート調査を実施し、343施設から回答を得た(回収率70%)。回答分布としては、各都道府県から2施設以上の回答が得られた。調査対象は、2016〜2020年にGBSによる侵襲性感染症を発症した0歳児であり、日齢0〜6を早発型、日齢7〜89を遅発型、月齢3〜11を超遅発型として3群に分類した。侵襲性感染症の定義は、無菌部位からのGBSの分離とした。
反復例31例を含む合計875例(早発型186例、遅発型628例、超遅発型61例)の報告が得られ、アジア最大規模の調査研究となった1)。調査対象期間5年間の発症頻度(対1,000出生児)は、1歳未満全体が有意に上昇していた(p=0.021)。その主な原因は、遅発型の上昇(p=0.046)と考えられ、早発型・超遅発型に有意な増減は認められなかった。2011〜2015年の全国統計の推移2)と比較すると、遅発型の発症頻度は上昇傾向にあるが、早発型には有意な変化は認められなかった。血清型分布については、3群ともにⅢ型が最も多く、続いてⅠa型、Ⅰb型、Ⅴ型の4大起炎菌が全体の約90%を占めていた1)。
臨床症候群別の予後について、死亡率は早発型6.5%、遅発型3.0%、超遅発型3.3%であった。後遺症の中で特筆すべきものは髄膜炎であり、その頻度は早発型28.0%、遅発型19.7%、超遅発型27.8%であった1)。死亡率は、早産児が正期産児と比較して有意に高く、早発型においてはOR 8.9(95%CI: 2.5-31.3、p<0.001)、遅発型においてはOR 3.5(95%CI: 1.4-8.9、p=0.012)であった。これらにより、早産児はGBS感染症による死亡の危険因子であることが示された1)。
次に、遅発型628例の感染経路の推定を試みた。発症時に母親の保菌状態を検査していた148例のうち、母乳117例の35.9%、膣・肛門58例の36.2%が陽性であった。母乳または膣・肛門のいずれか、または両方で陽性だったのは60例(40.5%)であった1)。無症候性の母乳におけるGBSのコンタミネーション率が3〜4%であることを考慮すると3)、当該値は非常に高く、児への水平感染に母親の保菌状態が関与していることが示唆された。
早発型発症例の母親の妊娠中のGBS培養結果は、69.7%が陰性であり(115/165例)、これらの中には下記のガイドラインの遵守不足による偽陰性が含まれると推測する。産婦人科診療ガイドラインでは、GBS培養検査は35〜37週に行うこととされているが、検査時期がこの週数から離れるほど正診率は下がる4)。また、膣単独の培養は膣・肛門の培養より陽性率は下がり、寒天培地は選択培地より陽性率は下がることも明らかにされている5)。こうした先行研究の結果から、GBS培養検査に関してガイドラインの遵守を徹底することで、早発型発症例数は抑制する余地が残っていると考えられる。
全体の再発頻度は3.7%であった(正期産児2.4%、早産児7.7%)1)。早産児は、正期産児と比べて有意に再発頻度が高かった(OR 3.41 [95%CI: 1.66-7.02] p<0.001)。多変量解析で再発に関する危険因子を検討したところ、性別と胎数は関連がなく、在胎週数が1週増加するごとにORが0.92下がり(95%CI: 0.85-0.99、p=0.029)、母親が保菌しているとORが2.72上がる(95%CI: 1.09-6.75、p=0.032)ことが明らかになった。イギリス・アイルランド・ドイツ・スイスの4か国の疫学研究では、男児、低出生体重児が有意な再発ハイリスク因子であり、初回治療期間が10日未満であることも関連する傾向にあった6)。初回治療終了から2週間以内の再発が多い現状も踏まえ、①数%の確率で再発があること、②感染症状出現時は通常の診療時間外であっても早期に受診することを、退院時に児の保護者に伝えておくことが望ましいと考えられる。
参考文献
1) Shibata M, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2022; 41: 559-571.
2) Matsubara K, et al. Infection 2017; 45: 449-458.
3) Zimmermann P, et al. J Infect 2017; 74 Suppl 1: S34-S40.
4) Colbourn T, et al. Early Hum Dev 2007; 83: 149-156.
5) Seale AC, et al. Clin Infect Dis 2017; 65 (Suppl 2): S200-S219.
6) Freudenhammer M, et al. Front Immunol 2021; 12: eCollection 617925.