先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症は、先進国における先天性中枢神経障害の主な原因である。日本の全出生児の約300人に1人の割合で認められ、そのうち約20%が難聴・てんかん・発達遅延などの症状を呈す。出生時より症状のある症候性CMVは、約80%が難聴を呈し、その後約40%に発達遅延が認められたという報告もある。米国を筆頭に、我が国においても臨床試験が実施され、抗ウイルス薬であるガンシクロビル、バルガンシクロビルによる治療が先天性CMVによる聴力・精神運動発達を改善または増悪抑制することが示されてきた1)。本邦では、2018年から新生児の尿中CMV DNA検出が保険収載され、簡便に診断できる状況となり、先天性CMV感染症に対する治療法の確立が求められていた。そこで、バルガンシクロビルの有効性や安全性を評価することを目的とし、多施設共同の非盲検単群第Ⅲ相試験を行った2)。
対象は、在胎32週以上、出生体重1,800g以上、生後21日以内に診断された中枢神経障害を呈する先天性CMV感染症児とした。出生後2カ月以内に同意取得し、同意から4週以内にバルガンシクロビルの投与を開始した。バルガンシクロビルは、16mg/kg を1日2回6カ月間投与した。好中球数が500/mm3以下になった場合は、休薬することとした。同意が得られた29例のうち、不適格4例と投与前に脱落した1例を除き、24例がバルガンシクロビルを投与された。好中球減少によって3例が投与中止となったため、本治験を完了したのは21例であった。
主要評価項目である投与6カ月後の全血中CMV量のベースラインからの変化量は、投薬前のベースラインと比べて、ほとんどゼロになっていた(中央値 -246.0 IU/mL、p<0.0001)。重要な副次評価項目である聴力障害レベルの変化については、投与6カ月後に聴性脳幹反応検査(ABR)で測定した。左右のうち聴力への効果がより良い方を指すbest earが、「改善」が58.3%、「正常のまま不変」が16.7%、「聴力障害が同程度で不変」が25.0%、「増悪」は0%であった。全耳を対象とすると、「改善」「正常のまま不変」「聴力障害が同程度で不変」は93.8%、「改善」「正常のまま不変」は52.1%であり、聴力障害に対する効果が確認できた。全血中CMV量および尿中CMV量は、投薬が進むにつれて下降が見られ、全血中CMV量はおおよそ2週間でカットオフ値を下回り、尿中CMV量は4週間ほどでカットオフ値以下になることが確認された。ベースライン時点で認められた血小板減少、肝機能障害、網脈絡膜炎のあった3例の児についても、6カ月後には全例に改善が認められた。
有害事象は、19例(79.2%)で発現し、grade 1が10例、grade 2が8例、grade 3が1例で好中球数減少が主な事象であった。副作用は、11例(45.8%)に発現し、好中球数減少が10例、貧血が1例であった。
本研究の結果を受け、2023年3月より症候性先天性CMV感染症に対するバルガンシクロビルの適用が追加承認され、保険適用で使用できることとなった。日本医療研究開発機構(AMED)の研究班として、先天性CMV感染症に関するホームページをリニューアルし、バルガンシクロビルの適正使用の手引きやQ&Aを掲載している。
参考文献
1) Morioka et al. Medicine 2020; 99(17): e19765.
2) Morioka et al. J Clin Med 2022; 11(13): 3582.