NICU感染症診療 メディカルスタッフ Webセミナー 初級ベーシック教育講座
「第126回日本小児科学会学術集会」より
1-O-167
新型コロナウイルス感染症流行中の国内における新生児・早期乳児のパレコウイルス感染症
相澤 悠太 先生
(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児科分野 助教)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、小児の市中感染症の疫学は大きく変化した。日本の感染症発生動向調査によると、手足口病はCOVID-19流行初年度に大幅に減少して翌年に微増、RSウイルス感染症は大幅に減少した後に例年よりも多くの症例数報告が認められた1)。カナダでは、90生日未満の救急外来受診者数が2020年に顕著に減少したことが報告されている2)。こうした動向を示す中で、COVID-19流行による新生児・早期乳児におけるパレコウイルス感染症への影響の検討を行った。

 国内12か所の小児医療施設で形成されたパレコウイルス流行把握のためのネットワークによる前向き観察研究で、敗血症・髄膜炎疑いで入院した新生児及び生後4か月未満の早期乳児を対象とし、COVID-19が流行する前の2019年1月から2022年9月までを調査期間とした。ウイルス解析は、血清と髄液を検体とし、まずパレコウイルスについて5’末端非翻訳領域を標的としてリアルタイムPCRで検出し、陽性の場合にはダイレクトシークエンスによってVP1もしくはVP3/VP1領域の塩基配列を同定した。さらに、VP1領域については、系統樹解析を行った3)

 検体総数258人のうち、パレコウイルス陽性者は71人(28%)であった。年次ごとの陽性者数は、2019年36人、2020年7人、2021年1人、2022年27人で、COVID-19流行で一旦減ったが2022年に再度増加がみられた。遺伝子型を確認した結果、71検体中4型が2人で、いずれも2022年9月の愛知県と高知県の症例であった。その他の69人(97%)は3型であった。検出された地域別でみると、2019年は宮城県から福岡県まで幅広い地域で陽性者が認められたが、2020年の7人はすべて沖縄県、2021年の1人は兵庫県、2022年は4型2人を除いた3型25人の内訳は福岡県22人、東京都3人であり、COVID-19流行後には以前のような地域の幅広さは認められなかった。VP1領域の系統樹解析の結果、COVID-19流行前の2019年は3か所に分かれた分布となっていたが、2020年以降は1つの枝で広がる分布を示した。

 国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)による年齢制限のないパレコウイルス陽性者の検出分布についても、2019年は全国各地で見られたが、2020年は福島県2人、2021年は中部関西地区を中心に17人、2022年は76人(分布情報なし)となり、陽性者数が一旦大幅に減少した後に再度増加している傾向が認められる4)。米国でも同様の報告がなされており、COVID-19の流行でパレコウイルスの陽性者数が減少し、2022年に増加したという結果であった。カンザス小児病院による単施設の報告では、陽性者数は2020年0人、2021年4人、2022年は37人で流行予測よりも多い症例数が報告された月もあった5)。米国全土の全自動遺伝子解析装置FilmArray®システムの髄膜炎パネルの検出結果では、2020年は0件であったが、2022年になり検出数が増え、検出時期が通常の夏よりも少し早まり春から見られたことが報告されている6)。臨床像については従来から変化はなく、末梢冷感・網状チアノーゼ(86%)、腹部膨満(77%)、臍突出(68%)が主な症状で、発疹(27%)や掌蹠の紅斑(14%)が出る患児もみられた7)。症例の分布は、九州地方から始まり西日本、そして東日本に広がる傾向が2019年に見られた。2022年も福岡県と東京都の2か所ではあるものの、やはり西から東へ広がる傾向があると思われるため、今後も再現性のある現象かどうか検討していく。系統樹解析の一つの枝のみで広がっている結果については、検出される地域が少ないことによって見かけ上のバイアスが生じている可能性、もしくは特定のcladeが生き残っている可能性の2つが考えられた。

 パレコウイルス感染症が流行しなかった期間に蓄積した感受性者の増加に伴い、今後陽性者数が増加する可能性もあるため、引き続き注意が必要である。

参考文献
1) Hirae et al. Int J Infect Dis 2023; 128: 265-271.
2) Burstein B, et al. JAMA Network Open 2021; 4(7): e2116919.
3) 相澤悠太, 齋藤昭彦. ウイルス 2015; 65(1): 17-26.
4) 国立感染症研究所, 病原微生物検出情報(IASR) Topics グラフ
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/510-graphs/4563-iasrgtopics.html)(2023年6月14日アクセス)
5) Brian RL, et al. J Clin Virol 2023; 160: 105381.
6) Tao L, et al. Open Forum Infect Dis 2023; 10(3): ofad112.
7) 相澤悠太 他. IASR 2022; 43; 234-235.