地域医療の取り組みと子育て地域医療の取り組みと子育て
三ッ林 ひろみ 議員
(衆議院議員)

 本日は、埼玉県の医療体制やこれまで衆議院の厚生労働委員長として法整備に力を入れてきた分野、またそれを実現、維持していくための課題についてお話ししたいと思います。

 私は、自見はなこ議員らと共に超党派「成育基本法推進議員連盟」の一員として、2018年に成立した「成育基本法」を基にさまざまな政策展開に携わってきました(コラム参照)。今年度は、「妊娠期からの切れ目ない支援」の一環として、出産育児一時金を42万円から50万円に引き上げました。来年度はこの出産費用の内訳を見える化し、その効果を見極めた上で、2026年をめどに健康保険の適用を含めた出産費用の支援策を強化していく方針です。ただ、地域差の大きい出産費用を保険適用化することに対しては、いろいろな意見が集まっています。とくに地方ほど産科の経営が立ち行かなくなる懸念があるので、この議論は丁寧に進めていく必要があると考えています。

 また、2022年4月に保険適用となった不妊治療に対しても、推進に向けた課題を整理、検討する予定です。実は日本で不妊治療を行っている施設数は、米国全土の約2倍もあり、とても数が多い印象です。この中から国民が適切な施設を選べるようにするには、やはり見える化などの工夫が必要ではないかと考えています。ほかにも、国立成育医療研究センターに、女性の健康に関するナショナルセンター機能を持たせる計画が始まっています。女性の健康や疾患に特化した研究やプレコンセプションケアを含む成育医療等の提供に関する研究等を進める予定となっています。

 埼玉県においては、現在、周産期の医療体制に大きな課題を抱えています。私の地元である久喜市も例外でなく、人口15万人に対して分娩施設が一つもなく、出産は隣りの市に頼らなければならない状況です。総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターは全都道府県に配置されましたが、分娩を取り扱う医療機関、とくに低リスクの分娩を担ってきた診療所が大幅に減少していることには危機感を覚えています(図1)。

図1 産婦人科を標榜とする医療機関数と分娩取扱医療機関数の推移

 少子化の試算によると、2070年には日本の人口は8,700万人になると言われています1)。出生数を上げるには、若い世代の経済的基盤の安定に加え、妊娠前後の支援、出産後の子育て環境、さらには教育環境など、複数の支援策を組み合わせることが必要です。国は2023年4月から「こども家庭庁」を司令塔とし、総合的な少子化対策を推進しているところではありますが(図2)、さらに勢いづけていく必要があるのではないかと考えているところです。

図2 総合的な少子化対策の推進について
コラム:「成育基本法」とは?

「成育基本法」は、正式名称を「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」と称し、2019年12月1日に施行されました。成長過程にある子どもおよびその保護者、並びに妊産婦に対して、必要な成育医療を切れ目なく提供するための施策を総合的に推進することを目的とする理念法です。それまでの母子保健行政の縦割りを解消し、子どもが大人になるまで切れ目ない支援を行い、健やかな成長を保障する社会づくりを目指しています。
 2021年には成育医療等基本方針が閣議決定され、今後進めるべき施策として妊産婦の医療体制の整備や、子育て・子どもを育てる家庭への支援、災害時等における支援体制の整備等、幅広い項目が盛り込まれています。

1)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」,令和5年推計報告書(2023年8月刊行)https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp(2023年12月13日アクセス)

ディスカッション

三ッ林:

成育基本法が成立して5年が経ちましたが、現場で何か変化はありましたか。

是松:

発達障害児や医療的ケア児への支援が手厚くなってきたと実感しています。

森岡:

こども家庭庁の設置もそうですが、法律ができると、これまで関心のなかった人たちも目を向けてくれるようになるので、そこが良い流れですね。

三ッ林:

成育基本法の成立以降、子ども中心の政策が進めやすくなったのが利点ですが、まだ予算については課題があるのでしっかり頑張りたいと思います。

森岡:

出産の保険適用化は、このまま進んでいく見通しでしょうか。

三ッ林:

そうですね。まずは来年度から出産費用の見える化を行い、保険適用のメリット・デメリットをしっかり検証したいと考えています。保険適用によりサービスが点数化されるということは、妊婦さんにとってどのようなメリットがあるのかをしっかり検証する必要がありますし、医療者側から見ると、点数によってはサービスを制限せざるを得ないと考えるかもしれません。

森岡:

先日、産婦人科の先生と話す機会があったのですが、出産が保険診療になると金額に縛りが生じるので、結果的に最低限のサービスしか提供できず、徐々に産婦人科開業の魅力が失われていくのではないかと心配していました。医療の均一化というメリットも理解できますが、サービスの低下、ひいては安全・安心の低下が懸念されます。

是松:

不妊治療の保険適用はいいと思うのですが、出産の保険適用はもう少し話し合いを重ねる必要があると思います。若い世代が結婚して居住地を考えるとき、産婦人科や小児科などの医療体制が整っている地域かどうかは、重要な選択基準になると思います。そうなると、今はどうしても都市部に集まりがちです。地方にも、医療体制はもちろん、働き口や学校などの教育環境も包括的に揃えていかなければなりません。

森岡:

子どもの人口が減少している地域などに対して、国はどのような考えをもっているのでしょうか。

三ッ林:

総合周産期や地域周産期母子医療センターといった施設を充実させつつ、各地域にも開業医等の分娩施設を提供する、この二つを両立させるというのが国の方針です。これを実現させるためにも出産の保険適用化は慎重に進めなければと考えています。

是松:

リスクのあるお産であっても、リスクの少ないお産であっても安心して出産できる体制を整える、それが地域医療だと思うので継続できるシステムづくりを期待したいと思います。